【会社法の勉強から実務へ】なぜ監査役会設置会社から監査等委員会設置に移行する上場会社が多いのか。

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会社法を勉強しているけど、監査等委員会設置会社って意味あるの?実務ではどのように使われているの?

会社法を勉強されている方の中でこのように思う方はいるのではないでしょうか。現状、上場会社が監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行する事例が多々ありますが、どうしてこのようなことが起きているのか、会社法を勉強しているだけではつかめない方も多いかもしれません。

今回、監査等委員会設置会社が実務でなぜ増えているのか記載したいと思います。

なお、私は、勤め先(上場会社)で数年前に監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行しましたが、その当時の経験をもとに記載したいと思います。

現在の上場会社の機関設計の選択状況

まず、現在、上場会社ではどのような機関設計の会社が多いのか示したいと思います。

以下の図は、東証プライム/東証一部の機関設計の推移を監査等委員会設置会社が登場した2015年からの推移になります。

現状でも圧倒的に多いのが監査役会設置会社ですが、2015年当初は91.4%ありましたが、2022年で57.6%まで減少しています。一方、その減少とは逆に年々徐々に増え続けているのは監査等委員会設置会社になります。最初は5.9%しかありませんでしたが、その後は年々安定的に増えて現在38.5%になっています。指名委員会等設置会社は圧倒的に少ないですが、徐々に増えている状況です。

状況から推察すると、大きな流れとして、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行する企業が増えていると言えるのではないかと思います。

なぜ監査役会設置会社から監査等委員会設置に移行するのか。

企業により様々ですが、主な理由として次の3点を挙げる企業が多い印象です。

① 経営の透明性の向上

② 意思決定の迅速化

③ コーポレートガバナンスのより一層の充実

(1)経営の透明性の向上

経営の透明性とは、大まかに言うと、社外の目がしっかりと経営を監督・監査し、適切に経営されている状態のことです。これを向上させるためには、社外役員が積極的に経営に参画し、発言しやすい環境づくりをすることが求められます。

では、監査等委員会設置会社はどのような点で経営の透明性が向上すると言われているのか、監査役会設置会社と比較してみていきたいと思います。

①取締役会で監査等委員も議決権を有する点(社外監査役は取締役会の議決権はない)

監査役会設置会社において、監査役は、取締役会で出席して意見を言うことができても、議決権をもっていないので、決議に参加できませんでした。しかし、監査等委員会設置会社では、監査等委員は取締役でもあるので取締役会において議決権を有し、決議に参加できます。

②監査等委員会では社外取締役の過半数を占めている点(監査役会では社外監査役は半数以上)

監査役会は社外監査役が半数で良かったのですが、監査等委員会では監査等委員である社外取締役が過半数必要になります。勿論、他にも変更点がありますが、このことからしても社外役員へ会社経営に参画する権限が大きく付与されるようになったと言えると思います。

なお、実際に運営状況をみても監査役会設置会社の頃よりも社外役員が積極的に会社に関与する機会が増えており、これにより経営の透明性が実質的にも向上したような印象を受けます。

(2)意思決定の迅速化

会社法第399条の13第5項と第6項の「重要な業務執行の決定の取締役への委任」が可能となったことにより、取締役会で決議をとらなくても取締役の決定で対処できるようになったことで意思決定が迅速にできるようになったということです。

他社ではわかりませんが、実際のところ、勤め先で扱う案件は重要な業務執行の決定の対象になることは多くはなく、また、現状、いきなり取締役に決定を委任することに不安があるのかそこまで効果があった印象はありません。

また、監査役設置会社でも社内の決済基準を見直すことである程度、取締役会決議から(代表)取締役に権限を委譲できるということもあり、私自身は監査等委員会設置会社になったから意思決定が迅速になったというような気はありません。

(3)コーポレートガバナンスのより一層の充実

実際のところこの影響が大きいと感じています。上場会社は、会社法を当然遵守しますが、それ以外にコーポレートガバナンス・コードという基準に満たすように努めています。コーポレートガバナンス・コードとは、金融庁と東証が定めた企業統治指針のことであり、株主等のステークホルダーとの関係性や取締役会等のガバナンスのあるべき姿を示したものです。このコードを遵守することは義務ではないですが、これを遵守しなければ株主等から賛同を受けられず、結果として株主総会の役員選任議案等で反対票を投じられる可能性が高まります。

そういったこともあり、上場会社ではコーポレートガバナンス・コードに最適な機関設計が求められます。

そして、そのコーポレートガバナンス・コードには、原則4-8に「プライム市場上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも3分の1(その他の市場の上場会社においては2名)以上選任すべきである。」という基準があり、これが監査役会設置会社から監査等委員会設置に移行を推し進められている要因でもあります。

(※独立社外取締役とは、主に証券取引所が定める一定の独立性基準を満たした社外取締役のことです。)

例えば、プライム市場の上場会社で社内の執行側の取締役を6人、社内の監査役員(監査等員or監査役)を1人採用したいという会社があるとしたら、この場合の社外役員数は最低何人必要でしょうか。

この場合、監査役会設置会社では、取締役6人に加え、社外取締役を3人選任しなければ、コーポレートガバナンス・コードの「1/3以上」という基準を満たすことができません。また、監査役会の最低員数は3人以上であり、社外監査役は半数以上必要であるところ、社内の監査役を1人採用するなら、社外監査役は2人選任しなければなりません。そうなると、社外取締役3人、社外監査役2人の合計5人を社外から探す必要が出てきます。

一方で、監査等委員会設置会社では、監査等委員も取締役なので、社内の取締役7人(執行6人+監査1人)に対し、1/3基準を満たすため、社外取締役4人選任しなければなりません。しかし、監査等委員会の監査等委員である社外取締役が過半数必要であるという要件はこの社外取締役4人の中から選べば良いので、特別に監査等委員である社外取締役を追加で選任する必要はありません。

とすれば、監査役会設置会社では5人の社外役員を探してこなければならないのに対して、監査等委員会設置会社では4人の社外役員で良いということもあり、社外役員を選任するコストを考慮すれば、監査等委員会設置会社の方がコーポレートガバナンス・コードを遵守するには最適であると言えます。

【参考】

近年はコーポレートガバナンスの影響で社外役員の需要が高まってきているものの、需要が供給に追いついておらず、社外役員の人材が不足しています。また、社外役員として迎えるにしても、社外の人材なら誰でも良いというわけではないので、探してくるのも一苦労です。実際のところ、この影響が大きいのではないかと思います。

なお、指名委員会等設置会社でも監査等委員会設置会社と同様に社外監査役を選任しなくて良いという面もありますが、指名委員会等設置会社は指名委員会と報酬委員会が法定で定められているものであるため、これらが法定で定められているわけではない監査等委員会設置会社の方が柔軟に運営できるということで監査等委員会設置会社の方が選ばれやすいのではないかと思います。

監査等委員会設置会社へ移行したメリット

一番は社外監査役が不要になることに伴って役員数を抑えられる点であると思います。近年、様々なところで人材不足と言われていますが、社外役員においても同様に言えます。社外の人材なら誰でも良いわけではなく、しっかりとした人材を確保するうえでも大きなメリットがあります。

また、海外の機関投資家から理解が得られやすい点もあると思います。海外投資家の中には監査役設置会社という形態を理解するのは難しいと感じている方もいるし、何もより社外取締役が取締役会で多く議決権を握ることにより透明性が確保されることを期待しているような印象を受けます。

監査等委員会設置会社へ移行するうえでのデメリット

事務手続きの負担が増えると思います。単純に移行するだけであればそこまで難しくはありませんが、多くの場合、併せて会社法外の執行役員制度、指名委員会、報酬委員会の見直し・設置、社内の決裁権限見直し等も検討されることと思います。これらを如何にマネージメントしていくかが担当者の腕の見せ所でもあります。

最後に

今回、主に会社法を勉強段階の方に向けて記載しました。少しでも会社法が実務でどのように運用されているのか理解いただけると幸いです。

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